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糖尿病性腎症は予防できる時代へ

[2026.06.30]

 糖尿病性腎症は予防できる時代へ ― 重症化を防ぐために大切なこと

  糖尿病性腎症は、日本で人工透析が必要となる原因の第1位であり、2022年には約1万4千人が糖尿病性腎症を原疾患として新たに透析を開始しています。しかし現在では、適切な治療を継続すれば、多くの患者さんで腎症の進行を防ぐことが可能になってきました。

糖尿病性腎症の重症化予防で最も大切なのは、「早く見つけて、早く治療し、それを続けること」です。

糖尿病性腎症は静かに進行する

 糖尿病性腎症は、糖尿病を発症した直後から始まっています。 初期には腎臓の糸球体で「過剰ろ過」と呼ばれる状態となり、一時的に腎機能(GFR)が高くなります。その後しばらくは腎機能が正常に保たれるため、自覚症状はほとんどありません。                                 しかし、この時期から尿中へのアルブミン排泄が少しずつ増え始め、やがて「微量アルブミン尿」となります。さらに進行すると顕性アルブミン尿(蛋白尿)が出現し、その頃から腎機能は徐々に低下し、最終的には透析や腎移植が必要となる末期腎不全へ進行します。

一方で近年は、蛋白尿が全く出ていないにもかかわらず腎機能だけが低下する患者さんも少なくないことが分かってきました。日本人2型糖尿病患者を対象としたJDDM研究では、正常アルブミン尿でありながらeGFRが60mL/分/1.73㎡未満の患者が約11%存在していました。                                      eGFRは糸球体ろ過量と言って腎臓の糸球体でろ過される尿のもと(原尿)の量の目安です。数字が小さいほど腎臓の機能が低下してることを表します。60/分/1.73㎡を切ると慢性腎臓病となります。

つまり、尿検査だけでは不十分であり、尿アルブミンとeGFRの両方を定期的に調べることが極めて重要なのです。

 

血糖管理は腎症予防の基本

 糖尿病性腎症の発症・進展を防ぐためには、まず血糖管理が基本になります。 わが国で行われた熊本スタディという研究があります。

   2型糖尿病患者110例を、強化インスリン療法群(治療目標:空腹時血糖<140mg/dL、食後2時間血糖値<200mg/dL、HbA1c<7.0%)と従来インスリン療法群(治療目標値:空腹時血糖値<140mg/dLのみ)にわりつけて8年間観察を行いました。その結果腎症の発症と進展は、強化インスリン治療で顕著に抑制され、腎症発症と進展予防のためのHbA1cは7.0%未満であると報告されました。                       この研究をはじめ、海外のDCCTやUKPDSなど数多くの臨床試験から、日本糖尿病学会では糖尿病合併症予防のためにHbA1c7.0%未満を目標とすることを推奨しています。

もちろん、高齢者や低血糖リスクが高い患者さんでは、一律に厳格な管理を目指すのではなく、安全性とのバランスを考えながら個別に目標を設定することが重要です。強化血糖管理については死亡リスクや体重増加、低血糖との関連を考慮して症例ごとに慎重に治療目標を設定すべきということです。

血圧管理は血糖管理と同じくらい重要

 糖尿病患者さんの約半数は高血圧を合併しています。  高血圧は糖尿病性腎症を進行させるだけでなく、心筋梗塞や脳卒中などの心血管病の危険性も高めます。

糖尿病患者では、診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満が推奨されています。一般的な高血圧の診断基準である140/90mmHg未満では十分とはいえません。

家庭血圧は、普段の生活に近い状態で測定できるため、診察室血圧よりも実際の血圧を正確に反映すると考えられています。そのため、自宅で毎日測定する習慣は、腎症予防にも大きな意味があります。

血圧を下げる薬の中でもレニンアンギオテンシン系阻害薬でありますACE阻害薬やARB(アンギオテンシン受容体拮抗薬)は特に重要です。これらは血圧を下げるだけでなく、腎臓そのものを保護する作用があります。

微量アルブミン尿の患者を対象としたイノベーション試験や、顕性蛋白尿を伴う患者を対象としたレナール試験では、ARBによって腎症の進行が抑制されることが証明されています。

減塩は薬の効果まで高める

 減塩は血圧を下げるだけではありません。食塩を多く摂ると、ACE阻害薬やARBの腎保護効果が弱くなることが知られています。逆に減塩を行うことで薬の効果が十分に発揮され、尿アルブミンの減少も期待できます。

そのため、糖尿病性腎症では1日6g未満の食塩摂取が推奨されています。

たんぱく質は「制限し過ぎ」も問題

 以前は腎臓病といえば「たんぱく質制限」という印象が強くありました。確かに、腎症が進行した時期には、尿毒素物質やリンの蓄積とアシドーシスを抑制するために、たんぱく質制限が必要となります。過剰なタンパク質摂取は、糸球体過剰濾過を助長することやタンパク尿を増加させることにより腎症を進展させる可能性があるからです。

しかし現在では、すべての患者さんに厳しい制限を行うわけではありません。顕性腎症期(タンパク尿が出だした時期)になったら0.8~1.0g/kg標準体重/日程度を目安として制限し、さらに腎機能が低下した患者さん(eGFRが45以下)では0.6~0.8g/kg標準体重/日まで制限するのです。

一方、高齢者では過度なたんぱく質制限によって低栄養やサルコペニア、フレイルを引き起こす危険があります。そのため、75歳以上や高齢患者では、一人ひとりの栄養状態を確認しながら慎重に判断する必要があります。

また、たんぱく質を減らす場合でも十分なエネルギー摂取を維持することが非常に重要です。これは大切です。

生活習慣の改善は腎臓を守る第一歩

 薬だけでは糖尿病性腎症は防げません。適正体重の維持、禁煙、適度な運動、減塩、バランスのよい食事、過度の飲酒を避けることなど、日々の生活習慣が腎臓を守る基盤になります。             

肥満は蛋白尿や末期腎不全の危険因子であり、BMI25以上では腎症リスクが高まります。

 また、喫煙者では糖尿病性腎症の発症リスクが約2倍に増加すると報告されており、禁煙は最も効果的な腎保護対策の一つです。

 アルコール摂取が腎機能に及ぼす影響は明らかではないものの、過度なアルコール摂取[適正な飲酒量はアルコール量として男性:20~30ml/日(日本酒1合)以下、女性:10~20ml/日以下〕は避けるべきです。

「血糖だけ」ではなく総合管理が重要

 現在の糖尿病治療では、血糖だけを管理する時代ではありません。 血糖・血圧・脂質・生活習慣を総合的に管理する「集約的治療」が重要であることが、多くの研究で示されています。

 デンマークのSteno-2研究では、微量アルブミン尿を有する患者に対し、血糖・血圧・脂質・生活習慣を同時に管理した結果、腎症の進行だけでなく心血管病も有意に減少しました。

 日本で行ったJ-DOIT3という研究は、2型糖尿病患者2542人を、現在のガイドラインに沿った治療を施す従来療法群(1271人目標:HbA1c<6.9%,血圧130/80mmHg,LDLコレステロール<120mg/dL)とより厳格なコントロールを目指す強化療法群(1269人,目標:HbA1c<6.2%,血圧120/75mmHg,LDLコレステロール<80mg/dL)に振り分け約8年に渡って心臓、血管、腎臓の経過を見たものです。           J-DOIT3における腎イベントは、①正常から微量アルブミン尿または顕性アルブミン尿への進展,②微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿への進展,③血清クレアチニン値のベースラインからの2倍化,④永続的人工透析導入ないしは腎移植で定義されてます。その結果強化療法では腎イベントが32%も抑制してました

 さらに、DNETT-Japanでは医師だけでなく看護師、管理栄養士、薬剤師など多職種によるチーム医療が行われ、顕性腎症患者の重症化抑制が期待されています。

 脂質に関しましても、GFR低下や蛋白尿に続発して脂質代謝に変調をきたしますし、高度な脂質異常症は腎臓病変を悪化させるのではないかとの脂質腎毒性説が以前から唱えられています。実際、脂質低下治療で腎保護が可能かについて、幾つかの肯定的な臨床試験があります。

微量アルブミン尿は改善する可能性がある

 かつて糖尿病性腎症は「一度始まれば進行する病気」と考えられていました。

しかし現在では、早期に発見して適切な治療を行えば、微量アルブミン尿が正常化する患者さんが少なくないことが分かっています。特に、アルブミン尿が出現してからの期間が短いこと、HbA1cが良好であること、ACE阻害薬やARBを使用していること、血圧が十分にコントロールされていることが、寛解につながる重要な因子とされています。心してましょう。

重症化予防の鍵は「治療を続けること」

 2016年には日本医師会、日本糖尿病対策推進会議、厚生労働省が「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を開始し、全国で重症化予防に取り組んでいます。

現在の標準治療をきちんと受けていれば、多くの患者さんで透析への進行を防げる可能性があります。

そのために最も重要なのは、

  • 糖尿病を放置しないこと
  • 健診で異常を指摘されたら早めに受診すること
  • 自己判断で通院や薬を中断しないこと
  • 定期的に尿アルブミンとeGFRを測定すること

なのです。

おわりに

 糖尿病性腎症は、かつては透析へ向かう病気と考えられていました。しかし現在では、早期発見と継続的な治療により、進行を遅らせるだけでなく、早期であれば改善や寛解も期待できる時代になっています。

血糖だけではなく、血圧、脂質、食事、運動、禁煙などを含めた包括的な管理こそが、腎臓を守り、健康寿命を延ばす最も確実な方法です。

「症状がないから大丈夫」と思わず、定期的な尿検査と腎機能検査を受けながら、主治医とともに長く腎臓を守っていきましょう。

 

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