肥満症は病気ということを知っておきましょう
今回も肥満症について考えてみます。昨今肥満症に対する関心が高まっておりまして、テレビのCMにも登場してきております。肥満および肥満と糖尿病を併せ持っている方向けの話となります。
「肥満症」とは「肥満に起因ないしは関連して健康障害を合併、またはその発症が予測され、医学的に減量を必要とする状態」をさします。BMI≧25kg/㎡の肥満のうち、肥満に伴う11個の健康障害(高血圧、糖尿病、脂肪肝、心不全、運動器疾患など)を1つ以上合併する場合、あるいは合併がなくても内臓脂肪の蓄積を伴う高リスク例は肥満症と診断します。BMIは肥満度で体重(Kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算されます。
対して「メタボリックシンドローム」は肥満の有無を問わず、動脈硬化リスク因子の集まりに着目した概念でして、この2つの共通する病態の中心は内臓脂肪の過剰蓄積であります。この過剰蓄積が動脈硬化性疾患のきわめて高いリスクとなる点で共通しております。
令和5年の「国民健康・栄養調査」によれば、わが国における20歳以上のBMI≧25kg/㎡の肥満者の割合は、男性31.5%、女性21.1%でして、過去50年間で増加してます。とくに成人男性ではすべての年代で長期的な増加傾向が認められます。日本人の肥満の大部分が25≦BMI<30kg/㎡でしたが、BMI≧30kg/㎡およびBMI≧35kg/㎡の割合は増加してきてます。わが国では国際基準のWHO基準をそのまま適用せず、BMI≧25kg/㎡を肥満の判定基準としてますが、BMI≧35kg/㎡かつ心不全・肥満低換気症候群・血栓症・運動器疾患などの健康障害を合併した状態は「高度肥満症」としてます。 この場合は減量目標も通常の肥満症より大きく設定されます。
肥満者においては糖尿病の発症リスクが高いことが特徴です。アジア人では欧米人に比較し、軽度の肥満であっても糖尿病の発症リスクが増大します。同じBMIであっても白人よりアジア人のほうが糖尿病の発症リスクが高く、身体活動レベルに関係なく、BMIが高いほど糖尿病発症リスクは増加することが示されてます。 更に現在の肥満度だけでなく、過去の体重増加、とくに若いころ(18~24歳)の体重増加が糖尿病発症リスク上昇に関係してることが知られてます。
糖尿病のある人の肥満との関係はどうでしょう。
肥満による糖尿病は主にインスリン抵抗性の増大に伴うものです。日本では、インスリン分泌低下型の糖尿病が多く、その場合肥満を伴わないことも多いものです。しかし確かに日本人の糖尿病患者さんでは欧米に比べて肥満者の割合は低いけど、JDDM(糖尿病データマネジメント研究会)のデータにおいは、その平均BMIは増加傾向にあることが示されています。
また肥満は糖尿病合併症とも関連があります。例えば、報告は少ないですがBMIの増加が有意に糖尿病網膜症の発症に関連していることが報告されてます。
肥満は心血管疾患の独立した危険因子でして、糖尿病患者さんのうち肥満合併症のほうが性別に関係なく心血管リスクが上昇します。また肥満はがんの主要なリスクのひとつです。肥満とがん発症に関する前向きの多数の解析において、男性ではBMI 5kg/㎡の増加で大腸癌、食道癌、甲状腺癌、腎癌と強い関連を認めました。女性では食道癌、胆嚢癌、子宮がん、腎癌と強い関連を認めました。糖尿病自体もがんの発症頻度が高くなることが報告されており、とくに膵癌、大腸癌、肝細胞癌などの消化器癌の発症リスクが高いことが示されてます。
更に肥満を持っている方の肥満特有な合併症を見てみます。
まずは脂肪性肝疾患(いわゆる脂肪肝)です。これにはMASLD(マッスルド)とMASH(マッシュ)とがあります。 MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)は脂肪性肝疾患と診断された方のうち、心臓、代謝の危険因子(BMI高値、糖代謝異常、血圧高値、高中性脂肪血症、低HDL-C血症)のうち1つ以上合併することで診断されます。 MASLD患者さんの70%程度は肥満(日本人の場合、BMI25以上)を合併してます。異所性脂肪とは脂肪組織外に貯蓄する脂肪の総称ですが、肝臓にたまる脂肪は異所性脂肪の代表格です。 MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)はMASLDの中でも肝細胞の炎症があって肝硬変へと進行してしまうものです。 脂肪性肝疾患は日本の成人の役4人に1人が罹患する日常的な疾患と言えましょう。
脂肪肝の超音波所見
注意すべき点としては、AST,ALT(肝酵素)が30U/L以下だと大丈夫ということではけっしてないということです。肝硬変に至ってしまうと肝臓での炎症はむしろ低下し、肝細胞が減少し、そのため血中AST,ALT値はむしろ低下し、見かけ上正常範囲になる方は多いものです。それゆえ、AST,ALTが30U/L以下でも脂肪肝の方は一度FIB-4インデックスあるいは血小板数を見ることが必要です。FIB-インデックスとは年齢とAST,ALTと血小板数から計算される値です。
FIB-インデックスは1.3と2.67という2つのカットオフ値を用いることが特徴です。FIB-インデックスが1.3未満の脂肪肝の方は肝線維化進展のリスクは低く、2.67を超える場合はリスクが高いと判断されます。年齢が計算式に入っているため、65歳以上では下のカットオフ値を1.3ではなく、2.0にすることが国際的にも推奨されています。糖尿病で、心臓、代謝の危険因子を有して、AST,ALT値上昇または画像・超音波検査で脂肪肝が認められる方は、FIB-4インデックスを使って肝線維化の評価を行い、1.3以上であれば肝硬度測定(超音波、MRIによる)を行うべきでしょう。ただし、糖尿病患者さんでは必ずしも有用性は高くなく、FIB-4インデックスが1.3未満でも糖尿病を合併する脂肪性肝疾患では高リスク群に入ることに注意しましょう。
次は心不全です。
心不全は世界的に年々増加の一途をたどっており、しばしば「心不全パンデミック」と表現されます。肥満に合併する心不全の原因としては、冠動脈疾患、高血圧、睡眠時無呼吸症候群、心筋症などが挙げられます。中でもBMIが35を越えるような高度肥満症患者さんでみられる心不全は、拡張型心筋症様の所見を呈することが多く、肥満心筋症と呼ばれてます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、一晩の睡眠中に無呼吸、低呼吸が30回以上、もしくは1時間あたり無呼吸・低呼吸が5回以上(AHI≧5)起こる状態を指します。重症度としては、軽度:5≦AHI<15、中等症:15≦AHI<30、重症:30≦AHIと分類されます。SAS合併肥満群は有意に内臓脂肪面積が多く、内臓脂肪の蓄積に伴いSASの合併頻度が増すのです。 SASは、循環器疾患との関連も強く、米国のSleep Heart Health Studyによれば。AHI≧11のSAS群における主な循環器疾患発症のオッズ比(危険率)は、非SAS群に比べて、心不全2.38、脳卒中1.58、冠動脈疾患1.2と高くなってます。 一般に簡易夜間酸素飽和度モニターでは、3%以上の低下が1時間あたり起こる回数である回数(3%ODI)を算出し、AHIの代用とします。おおむね3%ODI≧15がAHI≧20に相当するとのことです。この検査であれば比較的小さなクリニックでも施行が可能なことが多いです。
肥満自体が腎機能障害を起こすことがあります。
肥満症に関連した腎障害は、肥満に関連した血圧および血糖、脂質、尿酸などの代謝障害に伴う腎障害と肥満症固有の腎障害があります。これを肥満関連腎臓病と呼びます。腎硬化症や糖尿病性腎症とは区別されます。 肥満自体が腎機能障害のリスクになるのか、肥満に関連した高血圧、脂質代謝異常、高血糖などの周辺病態が腎機能障害のリスクとなっているのかという疑問に対しては、体重過多自体が腎機能障害のリスクとなるということです。 一般的には、井関らが約100,000名を17年間観察し、男性においてBMIが上昇するにつれ末期腎不全に至るリスクが高くなることを報告した通りです。 体重の減量は糸球体過濾過の是正などの機序を介しタンパク尿を減少させ、腎機能障害進行抑制に寄与します。
肥満症の治療目的は体重を標準体重まで低下させることではなくて、肥満に起因する健康障害を軽快、進展阻止あるいは予防することです。糖尿病、耐糖能障害、高血圧、脂質異常症、肝機能障害、高尿酸血症について、3%以上の減量によってこれらが有意に改善するという研究結果から、肥満症の減量目標は3%以上と設定します。高度肥満症においてはより大きい減量が必要と考えられ、5~10%の減量目標が必要です。
どこまでも肥満症治療の最終的な目的は、単なる体重減少ではなく、肥満関連健康障害及びそのリスクの改善を通じたQOL(生活の質)の向上ということです。
これからは治療の話です。肥満症には包括的治療が必要です。 先ず生活習慣の改善です。
- 食事療法
甘いものや高脂肪食、間食などへの嗜好が強い傾向がありますので、単糖類(ショ糖、果糖)や揚げ物を控えることを中心に、現在の摂取エネルギー量から300~500kcal/日減らす、または総エネルギー量の30%減らすのです。 何度も咀皭しながらゆっくり食べる習慣や、食物繊維を十分に摂取することも重要です。 超低エネルギー食療法としては糖質と脂質が少なくタンパク質(約20g)を十分に含んだフォーミュラ食(180kcal)を1日3~4回摂取する方法があります。アミノ酸バランスを比較的保持し、ビタミンやミネラル微量元素も摂取できます。しかし、これは入院管理下で実施されるべきものです。 急速な減量が必要な場合以外は、通常の食事療法の1食(例えば夕食)をフォーミュラ食に置き換えて1,000~1,200kcal/日程度の食事療法を実施することが有効です。
- 運動療法
肥満症の患者に対して座位行動時間を減らすことが運動療法の重要な第一歩とも考えられます。 有酸素運動として通常の歩行を1日30分程度、週150分を目標に開始し、達成できれば1日+10分程度歩行時間を徐々に増やすのが良いでしょう。 筋肉量の減少を予防するためレジスタン運動(筋トレ)も重要で、特に下肢の筋力維持のためにスロースクワットなどを少ない回数から開始することをお奨めします。
- 認知行動療法
食行動を自分で認識すること:問診表を用いて、食生活の規則性、食事内容、食べ方、空腹・満腹感覚、代理摂食、食動機、体質や体重に関する認識などをダイアグラムとして図示してもらいます。 体重変化の記録:1日複数回(起床直後、朝食直後、夕食直後、就寝直前など)の体重を日記に記入してのグラフ化します。 ライフスタイルの改善:睡眠、食事、間食、通勤、通学、勤務、入浴などの生活行動をその所要時間とともにグラフ化してみます。 咀嚼:30回咀嚼法など、モバイルツールを用いたセルフモニタリングしてみます。 などです。
4.薬物療法はどのようなものがあるのでしょうか。
SGLT2阻害薬です。
SGLT2阻害薬は約3kg程度の減量効果を示しますので、第一選択薬として使用されるケースも増えてきてます。SGLT2阻害薬は腎のSGLT2を阻害することにより、糖の再吸収を阻害し強制的に尿中へ排泄させることで体重を低下させる効果をもつ薬剤です。この薬剤によって得られる体重減少の最初は脱水によるものが多く、その後は尿糖の排泄(80~120g/日)に伴うエネルギーロス(400kcal前後/日)によるものです。SGLT2阻害薬投与により体重は2~3kg減少しその後一定となります。内臓脂肪が先に減り体重減少効果がみられます。ただし、排出した糖を補う為のアミノ酸の供給源としての筋肉も減るため注意を要します。適度な運動、とくにレジスタンス運動を併用することが重要です。また、この薬を服用しても1日約400kcal以上の過剰摂取をしてしまうと、有効性は期待できません。実際、減量はほぼ2~3kgで限界になり、効果が頭打ちになることがしばしばあります。
GLP-1受容体作動薬です。
GLP-1は胃蠕動運動抑制作用および食欲抑制作用を併せ持つことが知られています。視床下部弓状核を介して食欲を抑制することで減量効果を発揮するものと考えられています。 GLP-1受容体作動薬のウゴービは注射薬で1.0mgが最大量です。 経口のGLP-1受容体作動薬(リベルサス)もあります。 GIP/GLP-1受容体作動薬(ゼップバウンド)はウゴービ1.0mgと比較してもより強い血糖改善作用と体重減少作用が示されてます。臨床試験では15mg/週で72週間投薬により20%以上の体重減少が得られてます。
高度肥満症で食事療法、運動療法、認知行動療法、薬物療法などの内科的治療法による管理が非常に 困難なときは、外科療法の併用も必要となります。外科療法は単に減量が得られるだけでなく、糖代謝などの代謝改善効果も優れていることも利点です。
以上ですがこれらの話をみて関心のある方は外来で相談されてみては如何でしょうか。
