食後高血糖を克服しよう
なぜ食後高血糖が重要なのか?
健康診断や住民健診で測定される血糖値は、空腹時に測定されることがほとんどです。しかし、近年、様々な研究により食前の血糖値が正常であっても食後の高血糖が心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化疾患と深く関係していることが明らかになってきました。食後の高血糖が、動脈の内側にある内皮細胞を傷つけ、動脈硬化を進めていきやすくなります。
国際糖尿病連合は、これらの研究報告を受けて、2007年9月に「食後高血糖の治療ガイドライン」を発表し、糖尿病を持っている方は「食後2時間の血糖値は140㎎/㎗を超えないようにする」という目標を示しました。
ちなみにここでいう食後とは、食事を開始した時点からの経過時間で、食事を終了してからの時間ではありません。
糖尿病を持っていない方の食後血糖値が140㎎/㎗を超えることは、まずないです。
食後高血糖はなぜ起こるのか?
発症後早期の方や、血糖値を良好にコントロールされている糖尿病の方では、空腹時血糖値だけを測定しているところもあると思います。しかし、24時間血糖値を測定できるCGM機器を使用して、様々な方の一日の血糖値の動きをみると、空腹時血糖値だけの測定では、必ずしも十分ではないことが分かってきました。
空腹時血糖値は十分コントロールされているけれども、食後血糖値は200㎎/㎗前後まで急速に上昇し、次の食事前には100㎎/㎗近くまで、すぐに低下してしまう方もいます。これらを空腹時血糖値のみで見分けることは、きわめて困難であります。
食後高血糖がなぜ起こるのかというと、糖代謝の異常が軽いうちは、食後に血糖値が上昇しても膵臓から分泌されたインスリンが効いて、すぐに血糖値は下がります。しかし、糖代謝の異常が進行するにつれて、膵臓からのインスリンの分泌量やその分泌のタイミングが食後血糖値を抑えるためにインスリンが十分でなくなったり、インスリン自体の効きが悪くなったりすることによって食後高血糖が起こります。
食後高血糖をどうやって見つけるか?
最高の方法は、食後1~2時間ぐらいに血糖値を測定することです。血糖自己測定器を持っている方はこのタイミングで測定し、測定器を持っていない方は病院を受診する際に、食後1~2時間のタイミングで採血できるように食事の時間を調整してみるか、予約時間を合わせてみるのも1つ方法です。
治療目標としては、日本糖尿病学会が定めるガイドラインを基準に、食後2時間血糖値140㎎/㎗未満が「優」、180㎎/㎗未満が「良」とされています。
食後高血糖を是正するためのコツ
食前は正常なのに食後高血糖が認められた場合は、改善する必要があります。大切なのは、やはり食事と運動です。誰でも実践できる食後高血糖を是正するためのコツとして、以下の2点があげられます。
まず1点目は、食事はゆっくりよく嚙んで食べること、早食いは厳禁です。また、食事の始めに野菜など比較的吸収がゆっくりだと言われている食べ物を摂ることです。同じ炭水化物でも、吸収の早さの指標である「GI:グリセミック インデックス」値を参考に、食後の血糖値を上げにくい、GI値が低い食べ物を選ぶこともおすすめです。例えば、白米より玄米、うどんよりそばが上昇しにくいと言われています。GI値が高いほど吸収が早く、血糖値が上昇しやすいです。
2点目は、運動です。主治医から運動を許可されている場合は、食後に歩行などの軽い運動をするのが理想的です。食事のあとすぐ横にならず、少しだけ身体を動かす意識を持つといいでしょう。
食後高血糖に有効な薬物療法
食事や運動で食後高血糖が改善しない場合は、薬物を利用することをすすめます。食後高血糖の改善には、αグルコシターゼ阻害薬と速効性インスリン分泌促進薬の2種類です。また、超速効インスリンアナログ製剤も候補になりえます。
αグルコシターゼ阻害薬
この薬は、糖質の吸収に関わる腸の酵素の働きを阻害することで効果を発揮します。日本では3種類が発売されています。1型、2型どちらも食後の高血糖を改善するために使用できます。服用すると、糖の吸収を遅くして血糖値の上昇を抑えます。そのため、必ず食直前に内服する必要があります。副作用としては、お腹がごろごろする、ガスが増える、下痢などがあげられます。また、お腹の手術をした方は腸閉塞を起こす恐れがあるので、慎重に使用する必要があります。
速効性インスリン分泌促進薬
この薬は、内服後きわめて短い時間だけ膵臓に作用し、インスリンを分泌させる働きがあります。食前30分前に内服すると低血糖を起こすことがあるので、この薬もαグルコシダーゼ阻害薬と同じように、必ず食直前に内服する必要があります。この薬は1型の方には使えません。主な副作用としては低血糖があげられます。特に腎機能が低下している方や肝機能障害を伴っている方は慎重に投与します。また、人工透析を受けている方は、薬が体内に残り重症低血糖を起こすことがあるので、原則として内服は禁忌になります。
超速攻型インスリンアナログ製剤
食後高血糖を抑える薬物療法としてインスリン治療も候補にあげられています。αグルコシダーゼ阻害薬や速効性インスリン分泌促進薬を内服しても、十分に食後高血糖を抑えられない場合は、超速攻型インスリンアナログ製剤を各食前に投与するのも方法の1つとしてあげられます。注射というと抵抗を感じる方も多いかと思います。ですが、今回ここにあげた薬の中では、超速攻型インスリンアナログ製剤が、血糖値を下げる働きが1番強いです。主な副作用としては、低血糖があります。前述した2つの薬剤と同じで、食前の投与が必須です。
おわりに・・
以上のことから、空腹時血糖値とHbA1cからだけでは食後高血糖の有無を判断することは難しいところがあるということです。空腹時血糖値のみを測定されている方は、ぜひ食後血糖値も測定してみてください。もし、食後高血糖を認めた場合は主治医に相談し、最適な対策をたててください。そして、心筋梗塞や脳梗塞など動脈硬化に関与した病気を予防していきましょう。
月刊糖尿病ライフ さかえ 2008年5月号 特集 食後高血糖を克服しよう!より引用