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糖尿病患者さんとインフルエンザ

[2022.12.09]

糖尿病患者さんと感染症

 糖尿病患者さんは、感染症にかかりやすく、また、重症化しやすいといわれています。感染症にかかったことが発端となって、命を落とすこともまれではありません。

 では、どうして糖尿病患者さんは感染症にかかりやすく、かかった際に重症化してしまうのでしょうか?その原因は3つあります。

1つ目は高血糖が免疫を担当する白血球の機能を弱らせてしまうため、2つ目は糖尿病による血管障害によって、感染した部位に向かう血管が細くなったり詰まったりすることで酸素も栄養も白血球も抗生剤も病巣に到達できなくなるため、3つ目は糖尿病による神経障害によって、痛みなどの感覚が鈍感になり感染症の発症に気が付かず治療が遅れることがあるためです。

 

かかりやすい感染症、重症化しやすい感染症

 糖尿病患者さんは感染症にかかりやすいと考えられています。ただし、すべての感染症に罹患しやすいというわけではなく、「かかりやすい感染症」と「あまり影響を受けない感染症」があることがわかってきました。

 糖尿病ではない患者さんに比べると、糖尿病患者さんは「肺炎などの下気道感染症」「腎盂腎炎や膀胱炎などの尿路感染症」「足壊疽などの皮膚粘膜感染症」に罹患しやすいものの、「かぜなどの上気道感染症」では糖尿病のない方と比べても大きな差はないようです。

 一方、糖尿病患者さんが何らかの感染症にかかってっしまうと、原因の如何に関わらず重症化してしまう傾向があります。糖尿病ではない他の疾患をもつ患者さんに比べると、糖尿病患者さんが感染症に罹患した場合、入院するリスクや死亡するリスクは高くなっています。

 

インフルエンザと糖尿病患者さん

 風邪よりも熱が高くなりやすく、症状が強い傾向にあるインフルエンザは糖尿病患者さんにとって大きな脅威です。

 国内では、毎年1000万人以上がインフルエンザに罹患し、1万人の死亡者が発生していると言われています。持病のない若い人がインフルエンザに罹患しても重症化することはほぼありませんが、ある特定の疾患や状態の人が感染した場合、入院したり、死亡する頻度が高くなることが知られています。このような疾患や状態は「インフルエンザ重症化のハイリスク群」と呼ばれ、糖尿病もこれに含まれています。

 インフルエンザ流行時には、糖尿病患者さんが入院に至ったケースや死亡するケースが、非糖尿病患者さんの数倍になりことが指摘されています。さらに糖尿病の状態が悪い人は、リスクがより高くなります。糖尿病の状態が悪い「血糖コントロールが良くない」「糖尿病の合併症が進んでいる」と重症化になりやすいです。

 

インフルエンザからシックデイへと進むパターン

 シックデイは糖尿病患者さん特有の問題です。糖尿病患者さんが感染症に罹患すると、高血糖が持続したり、それに伴って脱水や栄養障害、急性腎不全などを起こします。これをシックデイと呼びます。

 さらに合併症として脳血管障害や虚血性心疾患を持っている患者さんは、感染症や脱水によって引き起こされる血栓形成により、脳梗塞や心筋梗塞などのトラブルを起こす可能性があります。

 

インフルエンザの治療

①シックデイ対策

対策としては次の3つが重要です。1つ目は日頃から血糖のコントロールを良くしておくことです。HbA1c6.5%未満、高くても7.0%未満でコントロールすることが必要だと考えられています。

2つ目は速やかに医療機関を受診することです。「食事ができない時間が6時間を超える」「39℃以上の発熱」「血糖値が300mg/dl以上の高血糖」「血糖値が60mg/dl以下の低血糖」「息苦しい」「下痢」などの症状は生命に関わり得る危険な兆候ですので、すぐに医師の診察を受けましょう。

3つ目は、あらかじめシックデイの際にどう行動するかをかかりつけ医と相談しておくことです。中止すべき薬と中止してはいけない薬を決めておくなど、日ごろから話し合っておくと安心です。

②抗インフルエンザ薬

代表的な抗インフルエンザ治療薬であるタミフルはインフルエンザ発症後48時間以内に内服すると、症状改善が1日早まる効果があります。しかし、糖尿病患者さんでは発熱などの症状そのものがイックデイを引き起こすので、積極的にタミフルの服用などの治療を受けることが勧められています。

 

インフルエンザの予防

①インフルエンザワクチン

インフルエンザワクチンを接種した集団は、接種しない集団に比べてインフルエンザの感染を50~70%程度減少させることがわかっています。

②肺炎球菌ワクチン

インフルエンザで重症化したり、死亡したりする場合の典型的なパターンの1つが、インフルエンザ罹患後に細菌性肺炎を起こすパターンです。細菌性肺炎の原因菌の中で最も頻度が高く、重症化しやすいのが「肺炎球菌」です。したがって、糖尿病患者さんは肺炎球菌ワクチンの接種も推奨されています。

③その他の感染予防

人混みや繁華街への外出を控える

外出後の手洗い

適度な湿度の保持

十分な休養とバランスの取れた栄養摂取 など

 

最後に

 糖尿病患者さんのインフルエンザ対策として重要なことは「シックデイ対策」と「ワクチン接種」です。インフルエンザの流行時に入る前にワクチンを接種し、シックデイに対しては、あらかじめかかりつけ医と相談しておきましょう。また、日頃から良好な血糖コントロールに加え、適度な運動、バランスの取れた食事、規則的な生活、良質な睡眠により体調を整えておくことも重要と言えそうです。

 

月刊 糖尿病ライフ さかえ 2022年1月号 より引用

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