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糖尿病による目の合併症・病変~視力はよくても、要注意~

[2024.03.22]

 

 糖尿病では、いろいろな病変が合併しますが、1番怖いものの1つが目の合併症である網膜症で、この網膜症は失明の原因第3位となっています。ほかにも、白内障(レンズが濁って霞む)、緑内障(眼圧が高く、視野が狭くなり、失明することがある:失明の原因第1位)、眼瞼下垂・複視(眼球運動をつかさどる眼筋の麻痺による)など、さまざまです。

 いずれにしても、糖尿病の治療を怠ったり、中断したりして、血糖コントロールの悪い状態が数年続くとリスクが増加します。もちろん、きちんと治療を継続して、血糖コントロールが良好な状態が続いていれば網膜症のリスクも低下し、かつ軽症にとどめることができます。

 

 糖尿病と診断されたら、まず眼科を受診して、現状を確認するようにしましょう。その際、眼科医から今後どのように受診・対処すればいいか聞いておきましょう。眼圧が高かったり眼底出血がある場合には、激しい運動はしばらく控えてくださいなど活動面でのセーブが必要になることもあります。その指示にしたがって、継続的に受診し、検査を受けるようにしましょう。そして、糖尿病連携手帳に眼科の受診の記録を記入してもらいましょう。

 

 目が霞む、、など自覚症状があれば一度主治医に相談し、必要であれば眼科を受診してください。少し霞んでいるけれどずっと変化はないし、生活にそこまで支障があるわけではないし、などといって定期受診を怠らないようにしましょう。というのも、視力に変わりはない、よく見えるといっても、眼底に病変がないとは言い切れないからです。

 網膜症の場合、広い網膜の周辺の一部に点々とした出血があったとしても、自分では分からないことがほとんどです。これは、物をはっきり見る目の機能が、網膜中央のほんの狭い黄斑に集中していて、ほかの黄斑部分はぼんやりとしかものを見る働きをしていないからです。なので、網膜周辺に少々の眼底出血などがあっても本人には全く自覚できないのです。逆に、糖尿病性黄斑症の場合、すごく狭い黄斑部の浮腫などだけですが、本人にとっては大きく視力が損なわれ、ショックを与えることもあります。比較的軽症の網膜症でも起こることがあり、要注意です。

糖尿病の場合、血糖値やHbA1c、尿蛋白出現などで自分で変化を感じることは不可能に近いです。期的な検査が欠かせないということを念頭に置いてください。

 

  網膜症は、血糖コントロールが良好な状態が続いていると病状の進行スピードを遅らせることができます。たとえ進行してしまっていても適切な時期にレーザー治療による光凝固術を受けると進行は抑えられ、視力も維持できます。また、出血や網膜剥離などがあっても、硝子体手術などで視力を回復できることもあります。

 

網膜症の病期と治療

  • 単純網膜症

 単純網膜症では、網膜の毛細血管の壁が弱くなり、一部が膨れて血管瘤(こぶ)ができたり、壁が破れて小さな出血が起きたり、血液の中の水分が漏れ出してきます。水分には脂肪やたんぱく質が含まれているため、それが網膜内に沈着して網膜のむくみが出現したりします。

 この時期では、血糖コントロールの安定化によって網膜症の進行を抑えることが可能な場合があります。網膜の一部が強くむくんでいる場合には、その部分を局所的にレーザー光線で凝固して治療することがあります。

 

  • 増殖前網膜症

 網膜の血管がさらに閉塞してくると、酸素や栄養の供給が乏しくなり、網膜の生きている細胞は息苦しくなります。そして、「酸素をもっとくれ!」という信号を出してきます。血流を増加させるために血管内皮増殖因子=VEGFという物質を、その信号として出してきます。この状態が増殖前網膜症で、この時期を見過ごす(放置する)と網膜に新生血管が発症し、増殖網膜症に至ります。

 増殖前網膜症の病期では、網膜光凝固治療(レーザー治療)が必要になります。酸素不足に陥っている網膜の細胞を間引くことで、酸素などの需要と供給のバランスを取り、VEGFを抑えることが期待できます。しかし、凝固する面積が不足していたり、その後の血管閉塞の進行が止まらない場合は、レーザー凝固をしても増殖網膜症に至る場合もあります。

 

  • 増殖網膜症

 網膜血管が広く閉塞して網膜に新生血管が発生した段階から、増殖網膜症と呼びます。増殖とは、血管が増殖することと、線維状のものが増殖することを指します。この病期は多種多様で、光凝固治療だけで安定してしまう網膜症から、失明に近い状態に至っている場合まで様々です。

 新生血管が「網膜の中」にできれば、酸素不足なども解消されるのですが、新生血管は網膜血管から発芽して、すぐ「網膜の外」に向かって成長します。目の内腔は、生卵の白身のような透明なゼリー状の硝子体という物質で充填されていますが、その硝子体の表面や中に向かって新生血管が成長するのです。しばらくすると、新生血管と線維状のものが膜状(増殖膜)となって収縮していきます。その結果、脆弱な新生血管が断裂して目の内腔が血だらけ(硝子体出血)になったり、増殖膜の収縮牽引が強い場合は網膜を引っ張って網膜剥離を起こしたりします。

 この時期では、網膜光凝固だけで安定状態に持ち込むことは難しく、手術的治療を要することがほとんどです。新生血管の成長の勢いを弱める目的で、VEGFを抑える薬物を目の内腔に注射してから手術をすることもあります。

 

  • 糖尿病黄斑浮腫

 黄斑部は視細胞がぎっしり密に並んだ、非常に感度のいい網膜部分です。この黄斑部に病変があれば、すぐに視力低下や「ものが歪んで見える」などの自覚症状が現れます。これが、糖尿病黄斑浮腫です。

 糖尿病黄斑浮腫は、単純網膜症や前増殖網膜症、増殖網膜症のどの病期にも合併することがあります。逆に、糖尿病黄斑浮腫がなければ自覚症状に乏しく、増殖網膜症の進行した状態でも「自分の目は、悪くありません」という患者さんも多くいます。この事例からも、自覚症状の有無に頼らず、定期的に眼科検査を受けることの重要性が理解できます。

 このむくみは、網膜の黄斑部付近の血管から水分が漏れてくるのが原因です。原因となっている血管(瘤)が少数の場合、レーザー光凝固を局所的に行うことで、かなり改善することがあります。

視力障害で悩まないために

 糖尿病網膜症は段階的に悪化していきます。しかし、糖尿病黄斑浮腫がないと自覚症状がありません。まずは糖尿病と言われたら、眼科の受診をしましょう。また、網膜症は過去の歪の積み重ねの結果として出現しているので、現在の血糖値を反映しません。なので定期的な眼科受診も必要になってくるのです。

 HbA1cは、合併症予防の為の目標値として7.0%未満を目指しましょう。この数値は、目の合併症だけでなく、腎臓や神経障害の細小血管疾患、そして心筋梗塞や脳梗塞などの大血管疾患の合併症の予防にも繋がります。

月刊糖尿病ライフ さかえ 2016 №.11 糖尿病で失明しないために より引用

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