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糖尿病スティグマって何?

[2022.07.25]

  平安時代、関白藤原道長は栄華を極めた貴族として良く知られてます。この道長が糖尿病の合併症に苦しんだこともまた良く知られてます。「この世をば我が世とぞ思う望月の欠けたることもなしと思えば」と詠んだ宴の2年前あたりから道長には多飲・口渇の症状がでており、「昼夕区別なく、ただただ目が見えない」と道長が視力障害を訴えたことが記されてます。これは糖尿病による網膜症でしょう。また狭心症を思わせる胸痛の記載もありまして、糖尿病による動脈硬化症を想起させられます。道長の最期はそれから9年後、背中のできもの(細菌感染)が悪化し、亡くなったとされてます。

  ふっくらとした体形、貴族の贅沢な食事や運動不足などを、道長を例にしてその環境からくる生活習慣病の典型として説明されがちなものです。

糖尿病の治療において生活習慣の改善は重要ですが、「生活習慣病」という言葉に引きずられて、糖尿病の発症や治療の困難さは生活習慣を改善出来ない患者さん自身の問題だという間違った認識が生まれることにつながってます。

しかるに、糖尿病の原因は様々でありまして、その発症には遺伝要因と環境要因がともに関係します。

実際、道長の家系をみてみますと、兄の道隆、叔父の伊尹、甥の伊周が糖尿病でして、家族歴が非常に濃厚だと言わざるを得ません。

また宴席も貴族の頂点ともなれば仕事の一環でして、とくに運動しないのも当時の貴族社会ではそれがあたりまえのこと、つまり社会的(環境)要因も大きかったと言えるでしょう。

こういう誤った考え方、生活習慣を改善出来ない患者さん自身の問題だとする考え方、がこれからお話しますスティグマを生み出す原因と考えられます。

 さてスティグマとはギリシャ語で、奴隷や犯罪者の身体に刻印された徴(シルシ)という意味です(大辞林)。これが転じて恥∙不信用のしるし、不名誉の烙印として使われます。具体的には個人の特徴を一般的に否定的なカテゴリーと結び付けてレッテルを張り、認識することです。そして身体的な障害、精神疾患、文化的な相違などを社会的価値の低いものとみなし、見下すことです。

 糖尿病の患者さんは往々にして家族、同僚、社会はたまた医療従事者からも次のようなスティグマを受けていないでしょうか。

糖尿病患者さんは「食べ過ぎ」だ

   いいえ  1日の総エネルギー摂取量、エネルギー消費量は糖尿病患者さんでも糖尿病でない人

        と変わりはありません。平均2143Kcal 対2140Kcalです。

糖尿病患者さんは肥満が多い

   いいえ  糖尿病患者さんの平均BMI(肥満度)は23.1

        一般人口の平均BMI(肥満度)は22.7で変わりはないですね。

       (糖尿病データマネッジメント研究会) 

 

 

糖尿病患者さんは生活習慣が悪い

   いいえ  糖尿病の発症には遺伝的要素が影響します。

        境界型の人で生活習慣改善を実行した人でも20%近くの人は糖尿病を発症してしまい

        ます。(糖尿病発症予防プログラム(DPP))

糖尿病患者さんは長生きできない

   いいえ  40歳時の平均余命では、日本人一般と糖尿病患者の平均余命に大きな差はありませ

        んでした。(厚生労働省 日本人の平均余命)

        日本人糖尿病患者さんが血管障害で死亡する割合は低下続けてます。(糖尿病の死因

        に関する委員会報告)

 

これらの間違いは全て誤った知識や低いエビデンスからくるものです。ですけど糖尿病があると言うだけで家族や同僚からは“食べすぎだから”、“不摂生だから”とか“怠け者のような目で見られる”というようなことが往々にしてあります。社会的にも生命保険や住宅ローンに加入できなかったと言うような不利益を受けてしまいがちです。それどころか自分自身を価値のない人間と思い込んでしまういわば“セルフスティグマ”に陥ってしまうこともあります。

 セルフスティグマに陥らないためには、先ず患者さん自身が糖尿病という病気と自身の現在の病状と治療内容について正しく理解することが必要です。そして糖尿病の発症、不十分な血糖コントロール状態、インスリンの開始、糖尿病合併症の発症なんかは個人の性格や能力の問題ではない事、そしてこれまでに築いてきた職場や家庭における個人の社会的役割が低下することはない事を本人自身が自覚することが大切です。この点に関しては医療従事者も糖尿病に対してネガティブなイメージを抱かせないように積極的に支援をしていくつもりです。

 患者さんが治療を受けながらも快適な社会生活を送るためには、上司とか同僚など周囲からの協力も必要となります。自分自身の言葉で病名と現在受けている治療内容について説明し周囲の理解を得ることも大切です。

 私ども医療従事者もスティグマを抱かせない言動が必要であり、知識不足、無理解は厳に避けなければなりません。糖尿病学会やその関連団体も社会に対して正しい糖尿病の理解を図る啓蒙活動が必要ですし、現にそのような活動を展開し出してます。今後マスコミや行政に対する働きかけが活発化していくでしょう。

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