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腸内細菌と糖尿病との関係は?

[2023.12.31]

 腸内細菌と糖尿病はどのような関係が有るのでしょうか。この疑問に答えるために腸内細菌のことを調べてみました。

人の腸内には、500~1,000種類、100兆個と推定される腸内細菌が生息しています。さまざまな種類の菌が一面に広がる様子がお花畑に見えることから、腸内細菌叢は腸内フローラと呼ばれているのです。

腸内の環境を整えるために発酵食品が有用であると最初に注目されたのは、ブルガリア地方に暮らす人々の寿命の理由が、乳酸菌を豊富に含むヨーグルト、つまり生きた菌の摂取により腸内フローラの腐敗菌を抑制するためという報告からでした。

発酵食品とは、乳酸菌や納豆菌、酢酸菌、麹菌といった細菌の働きによって食物が変化し、食材の味や栄養価が高くなるなど、人間にとって有益な作用をもたらす食品のことです。

ここ数十年でコンビニエンスストアやファーストフード店が増え手軽に食事が摂れるようになりました。しかしその為、高カロリー、高脂肪、糖が多い食事をする人が増え、カラダに有害な腸内細菌が勢力を増す一方、有用菌の減少で日本人の腸内細菌叢は大きく変化してると思われます。

発酵食品はさまざまなものが存在してますが、発酵の元となる食材別でも、

 豆類から作られるものとして納豆、味噌、醤油

 肉・魚から作られるものとして生ハムやドライソーセージ、鰹節、塩辛

 乳製品から作られるものとしてチーズやヨーグルト

 野菜や果物から作られるものとしてぬか漬け、キムチ、ピクルス、ワイン

 穀物から作られるものとして穀物酢、ビール、日本酒

などさまざまなものが知られています。

 

 ここでよく使われる用語ありますので紹介しておきます。プロバイオティクス、プレバイオティクスです。

プロバイオティクスとは、腸内フローラを整えて人間の健康に有益な生きた微生物ことです。代表的なものは乳酸菌やビフィズス菌でして、中でも乳酸菌は、腸内細菌叢を改善させ、便秘や消化機能の改善、脂質や糖質代謝の改善、免疫細胞の活発化などの有用性が知られています。

プレバイオティクスとは、大腸まで消化吸収されずに届く難消化性(消化しにくい)食品でオリゴ糖(3つ以上の糖が結びついたもの)や食物繊維などのことです。有用な腸内細菌の増殖を助け、腸内フローラのバランスを整えることが報告されています。

 腸内細菌は生活圏や人種などの影響によってそのフローラは異なっております。

日本人の腸内細菌は独特で、ビフィズス菌が圧倒的に多く、9割の人が海苔や海藻を分解する酵素を持つという特徴があるそうです。

そして日本人約4,200例を対象にした腸内フローラの研究では、短鎖脂肪酸産生菌が多く存在していることが明らかにされてます。これらの腸内フローラの違いには薬剤の影響とともに食習慣の影響もあることが明らかとされています。短鎖脂肪酸産生菌とは酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸を産生する菌のことで、乳酸菌、ビフィズス菌などがあります。酢酸、酪酸、プロピオン酸は腸の蠕動運動の促進、免疫の働きの調節、生活習慣病の予防など体に有益な働きをします。

 腸内環境を整えるには、自分の腸内環境がどのような状態かを知ることも重要です。これまでの研究から、日本人の腸内フローラのタイプは5つに分類でき、腸内細菌のバランスや種類、病気のリスクのほか、食事の傾向も知ることができます。ここでは図だけ示しておきます。

 腸内フローラと疾患の関係を見てみましょう。

京丹後市のコホート研究では、長寿者には酪酸産生菌が多いことが分かりました。酪酸産生菌は、ビフィズス菌や乳酸菌と並ぶ有用菌で、短鎖脂肪酸の一種である酪酸を作る細菌です。酪酸は大腸のエネルギー源と言われ、大腸の代謝を活発化して腸内の酸素を消費し、酸素を嫌うビフィズス菌などの有用菌を住みやすくしています。

国内外で便秘の研究が急速に進み、便秘が多くの病気の前兆であることが分かってきました。慢性便秘症の人は、生存率がより低く、パーキンソン病などの発症率が高く、更に認知機能の低下が早いことが報告されてます。

便秘症の人は、腸内フローラの乱れにより腸内細菌の産生する代謝物が変化して、免疫の恒常性を保つ働きがある短鎖脂肪酸、特に酪酸が減少しています。便秘というのは、腸の機能が落ちているという我々へのメッセージです。単に便秘薬を処方するだけでなく、どうして便秘になったのか原因を突き止めて対応しないと、患者さんの病気の予防はできないと考えられます。

注目したいのが大腸がんとの関係です。

ある種の腸内細菌は、大腸がんのリスクを高める硫化水素を作ることが知られてます。腸内フローラの変化に食生活の変化が重なりがんの進行が早まってしまうと考えられています。

 ここで本題の腸内フローラと糖尿病との関係です

糖尿病とも密接に関連がある肥満では、ファーミキューテス門に属する菌(悪玉菌)が多くなりバクテロイデス門に属する菌(善玉菌)が少なくなるとされています。菌の名前は無視して下さい。

善玉菌から産生される酪酸、プロピオン酸、酢酸などの短鎖脂肪酸は、

食欲を抑制するレプチン分泌を促進したり

脂肪蓄積を抑制したり

膵臓においてインスリン分泌を促進したり

脂肪組織内での抗炎症作用を発揮します。脂肪組織に炎症があると糖代謝に悪影響を及ぼします。

 

日本人の2型糖尿病のある方と糖尿病のない方との腸内フローラを比較して、ファーミキューテス門に属する腸内細菌(悪玉菌)が多くバクテロイデス門に属する腸内細菌(善玉菌)が少ないことを示した研究があります。このような腸内フローラの違いが生じる原因として食習慣、とくにショ糖や脂肪といったいわゆる欧米化食の摂取が考えられますが、これが2型糖尿病のある方と糖尿病のない方との腸内フローラの違いと関連していることを明らかにしています。

 味噌や納豆といった発酵大豆食品が糖尿病に及ぼす影響を考えてみます。

日本食に関しては、日本では「麹(こうじ)菌」という1つの微生物を大切に育ててきました。麹菌は、日本の発酵食品の基盤となり、健康的な日本食を作り上げました。

日本伝統の発酵食品は、みそもしょうゆも日本酒もみりんも酢も、すべて麹があるからこそ製造することができるのです。

麹菌が作り出す消化酵素は、でんぷんをこの酵素で分解させ複雑な甘みを生みます、オリゴ糖なども豊富に生産させます。麹菌はタンパク質をアミノ酸に分解する過程で、ペプチドというアミノ酸が結合したものを生成させます。ペプチドは奥深いうま味を作るほかに、抗酸化性や血圧低下作用などの多様な作用を持っています。

味噌の腸内フローラの改善に関する報告として、ファーミキューテス門(悪玉菌)の過剰な増殖を抑制し、バクテロイデス門(善玉菌)に属する菌を増やすことで腸内フローラの異常を抑制するというのがあります。

また、糖尿病のない日本人を対象とした研究で、味噌の摂取がインスリン抵抗性(インスリンの効きの悪さ)を低下させることが報告されています。

糖尿病のある方での味噌汁摂取と筋肉量低下の有無や血糖コントロールをみた報告では、味噌汁を摂取している女性ではそうでない女性と比較して血糖コントロールが良いことを明らかにしたとともに、筋量低下が明らかに少ないことを示しました。

また納豆の腸内フローラへの影響に関する報告もあります。

納豆を含む味噌汁を摂取することで、便中の善玉菌が増加し、悪玉菌が減少するとともに便中の短鎖脂肪酸が増加することが報告されてます。

一般に、味噌や納豆といった発酵大豆食品の摂取は血糖コントロール・糖代謝・肥満およびこれらと密接な関連がある脂肪肝の改善に寄与していると考えられてます。

但し、味噌汁は塩分を多く含みますのでこの点には十分注意する必要があります。

 ヨーグルトやチーズといった発酵乳製品摂取と糖尿病のリスクの関連に関する最新の大規模な解析もあります。発酵乳製品の摂取量が多いほど糖尿病発症リスクが明らかに低下しているというものです。なかでもヨーグルトの摂取量が多いほど糖尿病発症リスクが低下していることも明らかにしました。

味噌や納豆のみならず、さまざまな発酵食品が血糖コントロール、糖代謝、肥満に有用である可能性が高いと言えます。

 腸内環境を改善するためには、長期的な食習慣の改善が必要です。そのためには少しずつで良いので、毎日の食事にさまざまな発酵食品を取り入れると良いでしょう。

  1. 日本には発酵食品が多く、和食にするだけで微生物を食べる「菌食」を取り入れることになります。腸内環境を整えることは、一足飛びにはいきませんが、毎日の食事が美味しいと感じれば継続も可能となるでしょう。

 

 更に大切なことは、特定の食品のみにこだわるのではなくて、

   1. 食習慣の改善

   2. 身体活動量を上げる

   3. 生活リズムを作って睡眠を十分に取る

を実行することです。この3つはすべて腸内細菌と関係しますし、健康を維持するに不可欠ことです。

1.食物繊維が豊富な食事をしっかり摂りましょう。消化し難い食物繊維は腸内においては糖化菌という腸内細菌によって糖に分解され、その糖を乳酸菌やビフィズス菌が利用して酪酸、プロピオン酸、酢酸などの有用な短鎖脂肪酸を生み出します。

豚、牛、羊などの赤身肉は、有害菌を増やすだけでなく発がんリスクもあるため少量にして、タンパク質は、大豆や魚で摂ることをお勧めします。

2.日常の身体活動度を上げることが腸内フローラを整え、肥満や糖尿病、大腸がんに良い影響をもたらすとする研究も進んでいます。

3.睡眠は、腸を休ませるためにも重要です。寝る前3時間は、飲酒や食事を控えるのがよいでしょう。更に、睡眠と腸内フローラとの関連についての報告もあり、質の良い睡眠により腸内環境が整えられる、また、腸内環境を整えると睡眠の質が改善するなど双方関係の研究も進んでいます。

これらのことを頭に入れつつ、毎日の食事の中に発酵食品をうまく利用していけると良いでしょう。

(これらの記事は、月刊糖尿病Vol15 No5、第一三共BRIDGE 2023 Vol4、糖尿病ネットワーク、雑誌Tarzan No864 などから一部引用して記載しました。)

 

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