ケトアシドーシスて聞いたことありますか
血糖がそれ程高くなくてもケトアシドーシスという病状を引き起こすことがあるということをご存じでしょうか。? ケトアシドーシスという言葉も聞いたことがない方も多いかと思います。これは主にはインスリン分泌がほとんどなくなった1型糖尿病の方に起こる病態ですが一般の2型糖尿病においても一定の条件によっては起こしますので知っておいたほうが良いでしょう。
糖尿病ケトアシドーシス(一般にはDKAと略しますのでここでもそれを使います)とは生きていくための最低限必要なインスリンが欠乏して筋肉や脂肪や肝臓その他の組織が糖を取り込めなくなりエネルギーに変えることができなくなった状況で起こりえます。
組織に取り込まれなくなった糖が血液中に貯まって血糖値が上昇しますが、そのほかに代わりのエネルギー源として脂肪が利用されます。インスリン欠乏によって脂肪が分解しますと肝臓においてケトン体という酸性の物質が血液中に著増します。これがケトアシドーシスです。
どのような時に起こるでしょうか。?
DKAは一般的にはシックデイ(感染症など急性の病気のとき)や手術などでインスリンの必要量が増大したとき、1型糖尿病や2型糖尿病でもインスリン欠乏が強い方がインスリン注射を忘れたとき、膵炎などによってインスリン分泌が急に足らなくなったときなどに起こします。
どのような症状が現われるでしょうか。?
当然高血糖の症状として頻尿、多尿、多飲、口渇、倦怠感が顕著になりますが、特徴的なのは腹痛、吐き気、嘔吐などの消化器症状の出現です。普通尿中にケトン体がたくさん出ますので元々糖尿病をもっておられる方は比較的早く診断されますが、1型糖尿病においては初発の症状であることが多く誤診されてしまうこともあります。
今回お話ししたいのは血糖がそれ程高くなくても糖尿病ケトアシドーシス(DKA)を起こす病態があるので注意が必要だということです。普通DKAではその時の血糖値は著明高値(少なくとも250以上)ですが250以下でもDKAを起こすことがあるのです。このような病態は正常血糖ケトアシドーシスと言われてます。表われる症状は主に腹部症状になり、高血糖がないだけに見落としされやすくなるのが特徴です。
アルコールの過度の多飲、膵炎、重症肝疾患、妊娠などが誘因となりますが、SGLT2阻害薬の使用もその1つです。
SGLT2阻害薬は元々尿中に糖を排泄して血糖を下げたり、体重を減らしたりする糖尿病治療薬ですが、同時にナトリウムも排泄することによって腎臓や心臓を保護しその機能低下を防ぐ作用があるのです。そのため慢性腎臓病や心不全にも適応が認められ近年広く使われだしてます。糖尿病があると腎臓が悪くなったり、心不全になったりする率が高まりますのでその処方率は極めて高くなります。
SGLT2阻害薬はグルカゴンを増やして肝臓からのケトン体産生を増加させます。糖尿病であってもなくても約2倍にアップさせまおす。むしろこの位の増加が腎臓や心臓に対して保護的に働きその機能を高めます。ケトアシドーシスを起こすレベルとは桁数が違うレベルなのです。では何ゆえにケトアシドーシスを起こしやすくするのでしょうか。それはその他の誘因が重なるからです。
糖質制限や絶食はケトン体を上昇させます。例えば絶食が長期に渡ればケトアシドーシスに近いレベルまで上がります。またシックデイとか手術後でも上昇します。さらに大事なのは脱水です。脱水時は交感神経が緊張して脂肪を分解させるホルモンが増えてケトン体が上昇します。これらが重なりますと掛け算式にケトン体レベルが上昇するというのがポイントです。
このような状況になっても2型糖尿病では血糖はそれほど上昇してません。2型糖尿病とはごく普通にある一般に糖尿病と言われてるものでしてインスリン分泌力はそれほど落ちてません。そのこととSGLT2阻害薬自体が尿に糖を排泄させることによって血糖レベルも低め保たれます。その割にケトン体は著増してるということになります。これが正常血糖ケトアシドーシスです。すこし難しくなったかもしれませんが。
だからと言ってSGLT2阻害薬の使用を躊躇する必要はありません。
ではどのように気を付けて使っていたら良いのでしょうか。?
それは糖質制限をやらないこと。
シックデイ時や血糖コントロールが極めて不良の時および高齢者は脱水を極力起こさないように努めましょう。
インスリンを使っている方は体調が悪い、あまり食べれないからと言って過度にインスリンを減量しないようにしましょう。
他にも
過剰飲酒を避ける。
平素の血糖管理を怠らないこと。
です。
1型糖尿病のある方にSGLT2阻害薬を使う頻度は少ないのですが正常血糖ケトアシドーシイをおこす率は高まります。そのため十分な注意が必要となります。
血糖だけでなくケトン体にも注意が必要ですので、ケトン体も測れるようにしたいです。
これは尿でも血液でも簡易的に測れる試薬があります。できれば血液での方が良いですが。
他は2型糖尿病と同じ注意です。
インスリンポンプを使用している方はその頻度が多くなるとも言われてます。
往々にしてSGLT2阻害薬を使用してる場合は、脱水に対する注意とか、性器感染症の可能性に注意を強調されているかと思いますが、頻度はごく少ないものの正常血糖ケトアシドーシのことも頭の片隅に置かれていると良いでしょう。ここに書かれたケトン体上昇メカニズムを知っていると注意が行きやすいと思います。
ここに書かれていることは注意事項以外は忘れてもらって結構です。その上で毎日の充実した日常生活を送って下さい。