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糖尿病はダイアベティスに変わる?

[2024.08.11]

今回は「糖尿病」という名称についての最近の動きを見てみたいと思います。

昨年9月22日、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会という糖尿病に関する大規模な組織が合同で会見を行いまして、糖尿病の新しい名称として、「ダイアベティス」を提案しました。医学にみて「糖尿病」という名称は病状を正しく反映していないことと、「尿」という排泄物の名前が入るとネガティブなイメージにつながることが病名変更の理由です。今回、変更が提案されたのは病名ではなく、あくまでも名称です。病名というと公式に行政が使う用語となります。今後1~2年の時間をかけ、名称変更の必要性を含めて社会的に議論していくということです。その先に病名変更があるのです。

 日本糖尿病学会、日本糖尿病協会は、アドボカシー委員会という名称の会を設立しています。アドボカシーとは糖尿病のある方への偏見や差別を払拭する活動に取り組む活動です。今回の名称変更もその活動の一環でして、名称を変えることの意義、名称案に求められる要件などを議論されてきました。

 

「ダイアベティス」は、国際的に使用されている「diabetes」をカタカナで表わしたものです。その他の名称案としては、病態に則した「糖代謝症候群」や、国際的な略記である「DM」などが挙げられていましたが、(1)学術的な観点から正しい、(2)国際的に受け入れられる、(3)略称として使用されることも想定できる、(4)診療科名に使用されることも想定できる、(5)新規性がある──といった名称案に求められる要件・特徴に最も適合していると言うことで「ダイアベティス」が推薦されました。

 カタカナの表記は分かりづらいとの懸念がありますがアドボカシー委員会は「このような新規性のある名称にすることによって、社会に存在する糖尿病のスティグマを除去できるのではないか」との見解を示しました。 今後、同委員会は、変更の必要性や名称案の採用について、糖尿病のある方とその家族、医療従事者、関連学会や団体、企業、行政などと、1~2年の時間をかけ広く議論していくというものです。なお、これらの具体的なスケジュールは全く未定です。スティグマとは以下に説明いたします。

 スティグマとは、特定の集団に対して刻まれる「負の烙印」という意味を持ち、誤った知識や情報が拡散することによって、対象となった方が精神的・物理的に困難な状況に陥ることを指します。糖尿病治療は近年向上し、血糖値を良好に保つことで健常者と変わらない生活を送ることができるにもかかわらず、必要なサービスを受けられない(保険など)、就職、結婚や昇進に影響する、 などの不利益を被るケースが報告されています。こうしたスティグマを放置すると、糖尿病であることを周囲に隠すようになり、結果として適切な治療の機会を失い、 糖尿病が重症化し合併症が進行する恐れが出てきます. これは避けたい所です。日本糖尿病学会および日本糖尿病協会は、糖尿病患者さんをとりまくスティグマの重大な悪影響を認識し、それを取り除くことで糖尿病であることを包み隠さずにいられる社会を作ることを目指しています。

 このような流れから、2022年11月7日、日本糖尿病協会は1-2年以内に糖尿病という病名の変更を検討することについて発表しました。これは日本糖尿病協会が2021年11月から2022年9月までにインターネットで糖尿病の方1087人に対して調査を行った調査結果を受けてのものです。調査では、糖尿病という名称について、27.4 %が「不愉快」、25.1%が「とても抵抗がある」と答え、「抵抗がある」、「少し気になる」という回答を含めると90.2 %に上ったとのことです。具体的な内容は

  1. 不潔なイメージ。
  2. 排泄物の名前が入っている。
  3. 恥ずかしい。
  4. 怠惰な生活のイメージが付きまとっている。
  5. 甘い物の食べ過ぎによる病気と思われている。

などです。同協会が22年に公表したこの調査結果では、病名に不快感や抵抗感があるとして、患者の8割が変更を希望した。とのことでした。

このように「糖尿病」という名称からくる、糖尿病に対する誤った認識が存在して、それが偏見を助長し、差別を生んでいると考えられます。名称変更することによって社会に存在する糖尿病のスティグマを少しでも除去しようという試みです。

正式な病名の変更は、日本医学会や厚生労働省に報告し、行政文書の変更などを求める必要がありますが、これまでにも 痴呆症(ちほうしょう)が認知症になったり、精神分裂病が統合失調症になったり、色盲が色覚異常、高脂血症が脂質異常症となった例があります。これらは疾患概念の修正ではなく、患者さんへの偏見を減らすためでした。

 

 糖尿病という名称は歴史的には紀元前の中国では「黄帝内経素問」,「金匱要略」に記載されている「消渇」が口渇(こうかつ)、多飲(たいん)、多尿(たにょう)といった糖尿病と思われる病気を指し、これは水や食べ物が消える、通過するという意味の様です。 日本でも3世紀のころからそれが輸入され、中世、江戸時代まで消渇(しょうかつ)、あるいは、「渇きのやまい」と呼ばれていました。明治時代になってからは蜜尿病(みつにょうびょう)、糖血病(とうけつびょう)、葡萄糖尿(ぶどうとうにょう)、糖尿病など多くの病名が混在して使われていました。明治15年に初めて「糖尿病」という名称が創設されて、これが大正時代に完全に定着しました。

 

 

 

翻って「ダイアベティス」という名称はどうでしょうか。

糖尿病は英語で『Diabetes Mellitus(ダイアビーティス メリタスあるいはダイアベティス メリタス)』といいます。 これは、“サイフォン”を意味するギリシャ語のDiabetesと、“蜂蜜のように甘い”を意味するラテン語のMellitusが合わさってできた病名です

糖尿病は紀元2 世紀カッパドキア のアレテウス がDiabetesと命名したそうです。サイフォンの様に通り抜けるという意味があって、糖尿病の症状である多飲・多尿を表現しているものと思われます。しかし、Diabetesから始まる病名は実は2つあるのです。Diabetes Insipidus(尿崩症)とDiabetes Mellitus(糖尿病)です。両方とも喉が渇き、水を沢山飲んで多尿になります。Insipidusとは無味という意味ですし、Mellitusは蜜という意味です。無味の尿が大量に出る尿崩症(Diabetes Insipidus)と蜜の様に甘い尿が大量に出る糖尿病(Diabetes Mellitus)とうまく使い分けました。

 ただ今回の議論では、各界の間では、定着した病名を変えることに慎重な意見も少なくありませんでした。皆さんのご意見は如何でしょうか?

私個人としては2型糖尿病も1型糖尿病も「高血糖症」の方が単に血糖が高いだけという印象で良いのではないかと思ってます。 が、日本糖尿病協会の清野裕理事長は「ダイアベティス」こそは奥深い意味があって良いのではと話してました。
日本糖尿病学会の門脇孝 理事は「将来的には正式な病名の変更も視野に入れている。呼び方として定着することで、行政的なことばも変わっていくと考えている」と述べます。

新聞、インターネット記事、テレビなどでの呼称が但し書きを付けて「ダイアベティス(糖代謝症候群)」となるかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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