歯の健診を受けてみませんか?
近年、糖尿病があると歯周病が進行しやすいということが言われています。進行・重症化した歯周病が糖尿病の健康管理に与えること、逆に歯周病をきちんと治療すると糖尿病も改善するケースが明らかになってきました。
歯周病は、成人が歯を失う最も多い原因です。日本の40歳以上では半数以上に認められ、患者の割合は年齢とともに増加します。
歯周病の原因は歯の表面に付着している「プラーク」、いわゆる磨き残しの歯垢です。プラークは歯の表面に細菌が被膜を形成しバリアとなっており、「バイオフィルム」とも呼ばれます。このバイオフィルムは薬物の浸透を防ぐため、水や洗口剤などで口をすすぐだけでは除去できません。しかし、歯磨き(ブラッシング)で簡単に取り除けるため、ブラッシングが最も大切になります。
プラークは、主に細菌で構成されていて、その中には歯周病原菌も含まれます。歯周病の原因となる細菌は歯と歯肉の隙間、「歯周ポケット」で増殖することで、歯肉に炎症を起こし、さらに歯を支えている骨を溶かしてしまいます。歯周ポケットが深くなるほど歯を支える骨が失われ、最後は支えきれずに抜歯に至ってしまいます。
歯周病があると、どうして血糖値が高くなるの?
では、なぜ歯肉の炎症である歯周病が糖尿病に関わってくるのか。出血や膿を出しているような歯周ポケットからは、炎症に関連した化学物質が血管を経由して体中に放出されています。
中等度以上の歯周ポケットが口の中全体にある場合、そのポケット表面積の合計は掌(てのひら)と同じ程度と考えられています。歯周ポケットの中身は外からはなかなか見えませんが、手のひらサイズの出血や膿が治療なしで放置されていると考えると、からだ全体からも無視できない問題であることが理解できると思います。
ポケットから出て血流にのった炎症関連の化学物質は、体のなかで血糖値を下げるインスリンを効きにくくします(インスリン抵抗性)。そのため、糖尿病が発症・進行しやすくなります。
ここでの「歯周病の治療」とは、患者さん自身のブラッシングによるプラークコントロールをしっかり行い、歯科医院で炎症の原因となっている歯石を確実に取り除く(スケーリング)ことです。そうすることで歯肉の炎症をコントロールできればインスリン抵抗性が改善し、血糖コントロールも改善するということが、日本での研究を含めた多くの臨床研究で報告されています。
一方で、全ての症例で血糖値の低下が生じないことも明らかになっており、どのような糖尿病患者さんで血糖値が下がりやすいのかを調査した今後の研究成果が待たれています。
かかりつけ歯科医院を作りましょう
歯を失わないということは、生活の質を直接低下させないだけでなく、生活習慣病や認知症などの予防や管理にも深く影響してきていることが明らかになってきています。歯周病コントロールのためには、歯科医院での予防的なケアや専門的なアドバイスを受けるのが有効です。定期的なブラッシング指導を受け、自己流の間違ったブラッシングを続けないことにもつながります。一般に歯周病治療で改善する糖尿病の検査値の改善度は平均0.4%くらいと言われています。これは糖尿病の薬1剤分に匹敵するという人もいます。したがって、重度の歯周病を併発した糖尿病患者さんは、糖尿病そのものの管理の一環として歯周病を治療するとともに再発防止に努めることが大事です。かかりつけの歯科医院をつくり、年に1、2回のチェックとクリーニングを行うことが、歯周病と糖尿病の管理という観点からだけでなく、将来の快適な生活にもつながるのではないでしょうか。最近では、糖尿病手帳に歯科受診の記録も記載できるようになっているので、活用してみてはいかかがでしょう。
治療が必要になったら・・・
口の中のトラブルがあれば、すぐに歯科医院を受診しましょう。治療が必要な病変は早めに発見して早めに治療することが、重症化させないために重要なポイントです。一方で、受診した結果、治療が必要になることもあります。その際にもし血糖コントロールが悪かったら、治療効果が出にくかったり、治療をすぐに行えなかったりする場合もあります。治療を進めてよいか、歯科医だけでは判断できない場合には、糖尿病の主治医に確認をする場合もあります。まずは、ご自身が糖尿病をお持ちであること、薬の治療を行なっていることなどを歯科医に伝えてください。
また、歯科治療後、治療に伴う痛みなどで食事がとれないこともあるでしょう。糖尿病の薬の治療を行っている方で食事がとれない場合には、薬の調整が必要になることもあります。薬の調整方法を相談するためにも、歯科治療を予定しているときには糖尿病の主治医に伝えるようにしましょう。
最近、歯医者さんに行っていないな・・と思う方は、ぜひ一度受診してみてはいかがでしょうか?