運動療法に期待できること
はじめに・・・
糖尿病の運動療法は、食事療法、薬物療法と並ぶ重要な治療の1つです。その効果としては、血糖コントロールが改善するだけでなく、高血圧や脂質異常症の改善、最近では認知症の予防効果まであることがわかってきました。運動方法は、ややきついと感じる程度の有酸素運動と筋力トレーニングを行います。有酸素運動も筋力トレーニングもそれぞれ血糖コントロールの改善に効果があります。しかし、その両方の運動を行った方が血糖改善効果は高いといわれています。有酸素運動の時間は5~30分、筋力トレーニングは10~20回から始めるといいでしょう。ただし、運動習慣がない場合は、5~10分の短時間より開始し、徐々に運動時間を延長していくようにしましょう。また、運動を行う時間帯は食後1~2時間がよいでしょう。食後高血糖の是正や低血糖を予防することができます。次にもう少し1つ1つかみ砕いて説明します。
運動療法の効果
『糖尿病診療ガイドライン2019』において、2型糖尿病患者の運動療法には血糖コントロールの改善、心血管疾患(肥満、内臓脂肪、インスリン抵抗性、脂質異常症、高血圧、慢性炎症)の改善、生活の質(QOL)やうつの改善、認知症の予防効果まで認められています。
2型糖尿病の運動療法は推奨グレードAであり、運動を行うように強く推奨されています。また最近では、運動療法により、サルコペニア・フレイルの予防・改善効果(健康寿命の延伸)も期待されています。
1型糖尿病患者においては運動療法により血糖は低下しますが、血糖コントロールに関する長期的な有効性については明らかになっていません。しかし、1型糖尿病患者に対する運動療法には、体重やLDLコレステロールなど、心血管疾患発症のリスク因子の改善、運動耐容能や生活の質の改善など、血糖コントロール以外の有効性が期待されています。
運動による血糖改善効果
運動療法による血糖降下作用にには急性効果と慢性効果があります。急性効果とは、1回の運動でも血糖値が低下する作用のことであり、食後に運動を行うことで食後高血糖の是正ができます。慢性効果とは、運動の継続によって体脂肪が減少し、インスリン抵抗性が改善することで、インスリンの効き目が良くなります(インスリン感受性の改善)。
↑上昇 ↓低下 ↑↑or↓↓中等度の効果 ↑↑↑高度の効果 →変化なし
どんな運動を行えばよいか?
①運動の種類
有酸素運動には、散歩やウォーキング、自転車、水中歩行などがあります。レジスタンス運動には、トレーニングマシンやトレーニングチューブ、自重負荷(スクワットなど)を利用した方法があります。病院や施設で有酸素運動を実施する際は、トレッドミルやエアロバイクを用いると運動強度が設定しやすく便利です。有酸素運動とレジスタンス運動には異なる運動効果が示されており、それぞれ単独の実施でも血糖コントロールの改善効果はあります。ただし、その両者を併用したほうが、それぞれ単独に運動したときよりも血糖コントロールの改善効果は高くなります。
②運動の強度
運動強度は一般的に中等度の負荷が推奨されています。運動時の心拍数は運動強度に比例して高くなることから、患者ごとに目標心拍数を設定する方法があります。
目標心拍数=[(220-年齢)-安静時心拍数]×40~60%+安静時心拍数
例えば、70歳(安静時心拍数80拍/分)であれば、運動時の目標心拍数は108~122拍/分程度となります。ただし、自律神経障害を伴う場合や降圧薬のβ遮断薬を内服している場合には、運動しても心拍数が上昇しにくいため、心拍数を用いた運動処方は困難となります。このようなときは、自覚的運動強度を利用すると簡易に運動強度を設定することができます。Borg指数の11(楽である)~13(ややきつい)が中等度の運動強度に該当します。運動中の自覚症状がこのBorg指数11~13の範囲内であれば、安全で効果的な運動強度で実施できていることになります。
③運動の時間・時間帯
1回の運動時間は15~20分以上持続して行うと、糖質や脂肪を効率よく燃焼することができます。有酸素運動は、1週間で150分程度実施することが推奨されています。レジスタンス運動は、体幹や四肢の大きな筋肉を中心に1セット10回を2~3セット実施します。また、運動を行う時間帯は食後1~2時間までに行うと、食後高血糖の是正やインスリン治療を行っている場合の低血糖を予防することができます。
④運動の頻度
運動による糖代謝の改善効果は運動後24~48時間程度持続します。しかし、運動による糖取り込み促進効果は、トレーニングを中止すると1週間以内に消失してしまうため、運動頻度は少なくとも週3回以上実施することが推奨されています。
自分に合った強度と時間で、無理なく運動療法に取り組んで行きましょう。明らかな高血糖(空腹時血糖250以上)や糖尿病網膜症、腎機能の高度低下がある方は積極的な運動を推奨できないことがあります。まずは自分の健康状態を把握し、取り組む前には必ず主治医の先生に相談しましょう。
引用・参考文献
Nutrition Care 2020年5月号 糖尿病食事療法のギモン P42~45