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高齢の糖尿病についてのお話

[2023.07.17]

 今日は高齢の糖尿病についての話です。まだお若い方にはかなり先の話ですが、将来に備えて考えておくのも良いでしょう。

 法制度上は65歳以上を高齢者と定義しております。従いまして、65歳以上の方の糖尿病を高齢者糖尿病と呼ぶことになります。

しかし日本老年学会と日本老年医学会のワーキンググループは高齢者の年齢別の基準は、65~74歳を准高齢者、75~89歳を高齢者、90歳以上を超高齢者とすることを提言しています。医学的には75歳以上を高齢者とみなすのが良いということです。実際、認知機能の障害、日常生活動作 (ADLと言います)の低下、転倒、低栄養などのいわゆる老年症候群が75歳以上の高齢者で明らかに増加するが知られてるからです。これは高齢者の身体機能は40年前と比較して10~15年若返っていることによるものです。

高齢者が運転免許更新する際に認知機能や技能の検査が課せられるのは75歳以上の方ですね。75歳以上の高齢者と、身体機能や認知機能の低下がある65~74歳の糖尿病患者さんを、治療や介護上、特に注意すべきとして“高齢者糖尿病”とくくるのが良いでしょう。

 老年症候群は治療や介護を要する高齢者に多い症状または徴侯と定義されます。

認知機能障害、フレイル、ADL低下、サルコペニア、低栄養、転倒、骨折、うつ状態、視力・聴力障害、慢性疼痛、排尿障害などと色々あります。が主なものは認知機能障害、フレイル、ADL低下、サルコペニア低栄養です。これらの老年症候群は糖尿病患さんではそうでない方と比較して約1.5倍から2倍多いと言われてます。具体的には

糖尿病でない人と比較して認知症は約1.5倍

フレイルにいたるリスクは1.48倍

サイコペニアにいたるリスクは1.55倍

多いことが報告されています。

そしてこれらの老年症候群は75歳以上または80歳以上で起こりやすいということに注目しておきましょう。

 

 では老年症候群の中身を個別に観ていきましょう。

 認知機能障害は認知症と軽度認知機能障害(MCI)です。

記憶障害(いわゆる物忘れ)、ADLの障害(買い物、金銭管理ができない、電話応答ができない)、セルフケアができなくなる(服薬管理が出来なくなるなど)などを引き起こします。

糖尿病があるとアルツハイマー病は1.5倍、脳血管障害による認知症は2倍起こりやすくなります。MCI(軽度認知機能障害)も起こしやすくなります。それ以外にも認知機能全般(実行能力、記憶力、情報処理能力、注意力)が障害されやすくなります。

この判定には長谷川式認知症スケール、MMSEといった検査で判定します。

 フレイルは、日本老年医学会が2014年に提唱した概念でして、健康な状態と要介護状態の中間の状態を指します。身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことです。

フレイルの判定基準には、さまざまなものがありますが例えば以下の3項目以上該当するとフレイルと判定します。

  1. 体重減少:6ヶ月間で2kg以上の体重減少
  2. 疲れやすい:わけもなく疲れるような感じがする
  3. 歩行速度の低下:1m/秒以下
  4. 握力の低下:男性28kg以下、女性18kg以下
  5. 身体活動量の低下:軽い運動.体操をしてますか?、定期的な運動.スポーツをやってますか?

 症状としては、最近痩せてきたとか、歩いていると息切れがしやすくなったとか、前よりも疲れやすくなった、外出するのがおっくうになってきたとかいう症状です。年齢を重ねると誰もが感じることですが、このような虚弱の状態のことをフレイルと考えればよいでしょう。糖尿病があるとフレイルをきたしやすく、また血糖コントロールがHbA1cで8%以上だと特にフレイルをきたしやすくなります。

 フレイルの状態になると、死亡率の上昇や身体能力の低下が起きます。また、何らかの病気にかかりやすくなったり、入院するなど、ストレスに弱い状態になります。風邪をこじらせて肺炎を発症したり、転倒して打撲や骨折をする可能性があります。しかし、適切な治療や予防を行うことで要介護状態に進まずに、元の健康状態に戻すことも可能な時期でもあります。

 サイコペニアはどうでしょうか。サルコペニアとは、筋肉量の減少に伴って筋力や身体機能が低下している状態を指す言葉で、立ち上がったり歩いたりするのが困難になっていきます。頻繁につまずく、立ち上がる際に手をつくような場合にはかなり症状が進行していると考えられ、進行するほど生活の質の低下を招き、寝たきりになってしまうこともあります。一般的にサルコペニアの診断は、身体機能、握力、骨格筋量の3つをもとに診断されます。これらが一定以上低下している場合にサルコペニアと言うことになります。具体的には、

身体機能では5回椅子立ち上がりが12秒以上かかる、

握力では男性28kg以下、女性18kg以下です

骨格筋量測定はDXA法、バイオインピーダンス法がありますがこれはどこでも測れるものではありません。簡便には下腿の周囲径をみてみると良いでしょう。男性34cm以下、女性33cm以下は疑いありとなります。

 

 ADL(日常生活動作)に関しては食事、排泄、入浴などの基本的ADLと金銭、服薬管理、交通機関の利用などの手段的ADLとがあります。これらが障害されれば日常生活はその程度に応じて困難なものとなります。その評価に関してはDASC-21(地域包括システムにおける認知症アセスメントシート)その簡便版のDASC-8が日本では良く使われてます。これはまたフレイル、認知障害の程度も評価できます。がここでは詳細についてはここでは触れません。

 最後にその対策を考えてみます。これが一番大切ですね。

 認知機能障害やフレイルは共通の病因から成り立っていると考えられます。高血糖、低血糖、肥満、動脈硬化、身体活動低下、低栄養などです。ですから共通の対策を考えればよいことになります。ADLの低下はその結果によると考えればよいでしょう。

それは、レジスタンス運動を含む運動、栄養サポート、適切な血糖コントロール、動脈硬化の危険因子の治療、社会参加などです。

 栄養面では、エネルギ摂取では目標体重あたり29~34Kcal/Kgと若い頃よりむしろ多めの設定が必要となります。今までのエネルギー摂取制限からむしろ積極的に食べることが勧められます。高齢者では蛋白摂取が少なくなると同時に、蛋白合成も低下します。従って蛋白質摂取も重要です。低栄養またはそのリスクのある高齢者には1.2~1.5g/実体重/日が推奨されてます。健康な高齢者でも1.0~1.2g/実体重/日以上が必要です。具体的には一日3食で一食当たり20g以上取ることが必要です。朝、昼、晩共に取ることが大切です。目安は図に示しました。そして多様な食品摂ることも大切です。同じ食品ばかりに偏らないようにしましょう。

 運動ではレジスタンス運動(筋肉運動)が重要です。椅子を使ってのスクワット、市町村の運動教室がおススメです。レジスタンス運動以外に色々な運動も必要です。有酸素運動や

バランス運動、ストレッチです。下肢機能低下の高齢糖尿病患者さんの身体機能と認知機能の改善が期待できます。

 高齢者糖尿病をサポートする制度があります。

 各地域に地域包括支援センターがあり、高齢者が誰でも一緒に参加することができる介護予防に資する住民主体の交流の場を紹介します。通いの場、高齢者サロンに参加することで要介護リスクが50%減少することが報告されてます。

介護保険によりデイサービス、デイケア、訪問介護、訪問リハビリ、ショートステイなどが利用できます。

長くなりましたがこれらのことが高齢糖尿病患者さんの御家族の方、将来高齢になる中高年の方に頭の片隅に入って頂ければ幸いです。

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