メニュー

睡眠不足と糖尿病の深い関係

[2021.10.31]

 

   仕事が忙しく寝る時間が遅くなり、睡眠時間が十分とれない、家のことや職場のことで悩みがあり、なかなか寝付けない、眠っても眠りが浅く十分寝た気がしないなどと訴える方は多いのではないでしょうか。 特に最近の日本ではいわゆる24時間社会となってますので、生活が夜型化し、それに伴って睡眠時間が短かくなっている方も少なくないと考えられます。 実際大人の5人に1人が睡眠の問題を抱えて、とくに一般の労働者ではその20~40%が不眠や睡眠の質の悪さを認識してるといわれてます。

 問題はこのような不眠や睡眠不足が続くと昼間の眠気や全身倦怠感が出現し、集中力の低下や不安・イライラなどの神経的症状が出たりすることです。それに加えて糖尿病、高血圧、脂質異常症などといった身体的な病気を誘発したり悪化させたりしますから寝不足は見逃すことは出来ない問題です。

 更に驚くべきことは必要な睡眠時間には個人差があるものの、日常の睡眠時間と死亡率のと間にU字型の関係があるということです。U字型ということは6~7時間の睡眠をとる者の死亡率が最も低く、それ以上でもそれ以下でも死亡率は上昇するということです。

     睡眠時間とHbA1cとの関係 睡眠時間7時間前後が一番コントロール良好です

糖尿病患者さん、肥満患者さんでは不眠が高率にみられます。この関連性を調べてみましょう。

最初に糖尿病が睡眠に及ぼす影響を見てみましょう。

 まず、糖尿病があると頭の中にある視床下部―下垂体系という部位が活性化され、そのため睡眠状態の悪化、とくに睡眠の質が低下する。と言うことが知られてます。また、糖尿病患者さんでは高血糖が著しいと口渇や夜間頻尿が、糖尿病性神経障害があると痺れや疼痛といった身体症状がでます。これらの症状が不眠の原因となってしまいます。

糖尿病患者さんに多く見られる仰うつや不安などの精神症状もまた不眠の原因となります。

糖尿病には肥満はつきものです。肥満により上気道周囲の脂肪が増え、睡眠時無呼吸症候群が発症したり悪化したりします。これも不眠の原因です。

 

今度は逆に不眠が糖尿病に及ぼす影響見てみましょう。

 不眠が糖尿病に与える影響はいろいろ多岐に及びます。糖尿病がない人においても強制的に睡眠不足にすると、交感神経が活性化されコルチゾールが分泌されインスリン抵抗性の増大を認めたと報告があります。また、不眠により、食欲を抑制するホルモンであるレプチンが低下し食欲を亢進させるホルモングレリンが上昇するという報告もあります。これにより生じる食欲増進は血糖コントロールに当然不利に働きます。

 睡眠不足があるとオレキシンの濃度が高まり摂食活動は亢進します。またオレキシンは肝臓における糖の産生を促進し血糖値を上昇させる作用があります。睡眠はオレキシンを直接抑制します。

 一方で、睡眠障害をもつ患者さんにおいては、日常活動量の低下と体の熱産生を低下させることが指摘されています。これも血糖を上げる原因ですね。いろいろ血糖を上げる原因がありすぎですね。

 肥満に関しては6~7時間の睡眠をとる人は肥満度が最も低く、睡眠時間がそれ以上でもそれ以下でも肥満度は上昇すると言われてます。睡眠時間の短い人は、カロリーが多く栄養価の低いスナックなどを食べていることが多く、1日を通しても食べる量も多いです。また夜遅くまで起きている生活は、テレビやスマホなどを見ている時間が増加したり、高カロリーな食品の食べ過ぎなど、肥満や糖尿病のリスクを高める行動につながります。

 

日本睡眠学会は、睡眠時間を十分に確保し、質の良い睡眠を得るために次のようなことを推奨しています。少しかみ砕きますと

① 快眠、まずは規則正しい生活からです。

  体内時計を整え、体を睡眠に導くために、毎日同じ時刻に就眠・起床をすることが効果的です。光で体内時計を整える為には朝起きた時、朝日を浴びることが大 切です。

② 夜遅い時間に食事しないこと。

 夜遅い時間に夕食をとると、胃の消化活動が活発になり、大脳皮質や肝臓の働きが活性化し、結果として睡眠が妨げられます。食事から臥床まで最低2時間は空  けましょう。

③ 適度な運動が良い睡眠をもたらします。

  30分のウォーキングなどの運動を毎日続けると良いですね。

④ 寝る前にリラックスする時間帯をつくる。

  寝る前に体をリラックスさせ、副交感神経優位の状態に向かう移行期を作る時間帯が必要です。なるべく昼間の悩みを寝床に持って行かない様にしましょう。

⑤ 就寝前のカフェイン、お酒、喫煙はやめる。

  眠るための飲酒は逆効果です。アルコールを飲むと一時的に寝つきが良くなりますが、徐々に効果は弱まり、夜中に目が覚めやすくなります。深い眠りも減っ   てしまいます。

⑥ 最後に、寝る30分前には出来るだけ液晶画面を見ないようにすること。

  ブルーライト(携帯やパソコンなどから出ている光)は交感神経を刺激して眠気や良い睡眠の妨げになります。

 

なかなかこのような理想的な生活を送れる人は少ないかと思われます。しかし次のような報告があります。

「不眠を訴える糖尿病患者さんに短時間作用型の睡眠薬(マイスリーなど)を投与し、6ヶ月後に22人のHbA1cの変化を調べた結果、投与しない群19人で平均HbA1cが0.12%上昇したのに対し、投与した群では平均0.47%有意に減少した」というものです。血糖コントロールの悪い患者さんでは不眠を改善することで糖代謝が改善し、血糖コントロールも良好になることが示唆されました。

     血糖コントロールが悪い人(Responder)ほど睡眠薬の効果が顕著にあります

 オレキシン拮抗作用をもつ睡眠薬を用いた不眠の治療は、睡眠障害そのものとそれに伴う糖代謝異常の双方の改善につながることが示唆されてます。最近は睡眠薬でも副作用の少ないオレキシン受容体拮抗薬とかメラトニン受容体拮抗薬が出ています。このような薬剤を補助手段として使ってみるのも1つの選択肢ではないでしょうか。

 

快眠、熟眠で元気な日常生活を戻し、血糖コントロールも良くしていきたいものですね。

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME