ご自身の腎臓の状態を知ってみましょう
ドッグや健診で腎臓に関する項目で軽度異常とか経過観察とか言われたことは無いでしょうか?。また要精査、要治療で医療機関の受診を勧められたことは無いでしょうか?。
この様な場合でも具体的にどこがどの程度異常なのかなかなかピンとは理解しにくいものではないでしょうか。
そこで慢性腎臓病(略語でCKDと言います)という概念を通して腎臓の状態を把握してみると良いでしょう。
慢性腎臓病(CKD)は次のような血液、尿の所見を呈したときに該当します。
- 腎臓の障害を示唆する、尿蛋白が陽性。
具体的には0.15g/gCr以上の蛋白尿、または30mg/gCr以上のアルブミン尿の存在
- 腎臓の働きを示す糸球体ろ過量(GFR)が60ml/分/1.73m2 以下
➀、➁のどちらか或いは両方が3か月以上続いた場合にCKDとなります。一過性のものは除外します。
先ず➀について説明します。腎臓が障害を受けるとその糸球体というところから尿に蛋白が漏れ出ます。その漏れ出る蛋白の量をもって腎障害の程度を知ることができます。
蛋白尿0.15g/gCr、アルブミン尿30mg/gCrはごく微量の蛋白でいわゆる尿試験紙では+-で判定される程度のものです。ですからそれなりに測定してみないと分からないことが多いです。ドッグや健診では一般には測られてはいないようです。これをは糖尿病患者においては微量アルブミン尿期と言われます。
蛋白尿0.5g/gCr、アルブミン尿300mg/gCrになると尿試験紙1+になり健診でもはっきり陽性と判定されます。顕性タンパク尿期と言います。
ですから➀に関しては健診では見過ごされやすいです。尿アルブミンは尿蛋白の主要な成分で腎障害をより精密に反映しますのでこちらで見た方が良いのですが、今のところは糖尿病のある方しか保険が認められてません。
/gCrは何のことかと思われますが、Crは尿クレアチニンのことでgCrで尿の濃さを表します。尿の濃さで蛋白濃度を補正するというわけです。
次に➁について説明しましょう。
糸球体ろ過量は腎臓において1分間に血液がろ過されてできるろ液の量です。糸球体は、腎臓の中で血液をろ過する働きをする部位です。これは腎臓の働きの目安となります。
糸球体ろ過量は通常GFRという略語で表します。腎機能が正常な人のGFRは約100mlです。これは区切りが良くて覚えやすいですね。たくさんある糸球体が少しづつ壊れると、このGFRが低下します。濾過される量が少なくなっていくと言うことです。血液中の老廃物を十分に排泄できなくなっていくと言うことです。単位はml/分/1.73m2ですが略しても通常分かります。
GFRは性別、年齢と血液検査で分かる血清クレアチニン値から推定できます。
正常GFRは約100mlと言いましたがそれ以下の値は機能低下に応じて以下の様に分類されてます。
90以上 正常
60~90 軽度低下
30~60 中等度低下
15~30 高度低下
15以下 末期腎不全
➀、➁の説明を参考にご自身の腎臓の状態の位置を下の図に当てはめてみたいものです。
分からなければ担当の先生に聞けば良いでしょう。
腎臓の状態の進行の予測にはやはり腎臓の原疾患が何かが重要となります。ほとんど進行しない病態もあります。
元々の腎疾患としては腎炎、多発性嚢胞腎、ループス腎炎、移植腎などがありますがこれは専門医による専門的管理が必要な病態です。続発的な腎疾患としては糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、良性腎硬化症があります。これらは生活習慣の是正、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常)の管理が大事になって来ます。
通常CKDといいますとその大多数を占める糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、良性腎硬化症を念頭に置いてることが多いのでそれらの疾患だと思ってもらって結構です。
慢性腎臓病(CKD)はどのような特徴があるのかを知っておきましょう。
- 糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満があるとなりやすくなります。
メタボリック症候群もしかりです。脂質異常症はLDLコレステロールや中性脂肪が高い、あるいは善玉のHDLコレステロールが低いなどがあります。そして生活習慣病自体がCKDを引き起こしたり、悪化させるだけでなく、CKDも生活習慣病に悪い影響を与え、お互いを悪くし合う悪循環を作ります。
具体的な値で言いますと高血圧の方は、血圧を130/80mmHg未満に維持しましょう。
糖尿病の方は、HbA1cを最低7%未満にコントロールしましょう。脂質異常症の方はLDLコレステロールを120mg/dl未満を達成しましょう。
- 心筋梗塞や脳卒中などにかかる危険性が高まります。一見腎臓と心臓や血管、脳と関係はないように思えますが、腎臓が悪くなると血圧が上がったり、全身で酸化や炎症を起こす物質が増えることで心臓や血管、脳に悪影響を及ぼします。
腎機能低下が大きいほど心血管病変を起こしやすいですし、また腎機能は同じでも尿蛋白が多いほど心血管病変を起こしやすいことが分かってます。
- 進行して腎不全になると透析が必要になることがあります。
GFR15以下の末期腎不全になり体に老廃物が更にたまって、生命に危険が及ぼすようなレベルになりますと透析や腎移植が必要になります。尿蛋白が多いほど末期腎不全になりやすいです。
- 最後に生活習慣(食事や運動)の改善や、薬物治療によって改善することができるということです。
CKDになっても、適切に治療すれば病気が進むのを食い止め、心筋梗塞や脳卒中、或いは腎不全になるのを防ぐことができるものです。
その為には先ず生活習慣を改善する必要があります。糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満のどれも生活習慣の改善が一番大切です。
そのうえで不十分であれば薬物療法を行って目標値に達成するように治療することが大切です。更に腎臓そのものを改善する薬が最近関を切ったように出ています。これらによって最近は透析導入率が減って来てるのは注目すべき事実です。
それでは具体的なCKDの治療は次回にお話ししてみましょう。