腎臓リハビリテーションについて
最近糖尿病の患者さんで、腎臓の機能が低下している患者さんの割合が増加してきてることが注目されてます。その原因としましては、高齢社会を反映して糖尿病患者さんも高齢化してきたこと、また、肥満の患者さんが増加してきてることが考えられてます 。ある大学の研究では、“腎機能低下患者さんの割合が1996年では12%であったが、2014年には24%と倍増しましたが、年齢も59歳から66歳と高齢化し、BMI(肥満度)も23.4から24.1と増加した”と言ってます。
糖尿病患者さんもその高齢化にともなって血管障害(虚血性心疾患・脳血管障害・動脈硬化)を発症し、これらの発症に伴い腎機能が悪化するのではないかと考えられます。肥満も腎機能に影響を与えます。
慢性腎臓病(CKD)や糖尿病性腎臓病(DKD)の治療はどちらも①運動療法②薬物療法③食事療法の3つが基本となります。今回は普段あまり注目されていない運動療法について考えてみたいと思います。
昔は「運動は尿中のたんぱく質を増やし、腎障害を悪化させる」ので、あまり体を動かさないようにと言われてました。ところが近年はいろいろな研究から、適度な運動による腎機能(推定GFR値)の改善、たんぱく尿の減少、体力や生活の質の向上といった効果が認められ、脳卒中、心筋梗塞、心不全を減らす可能性のあることがわかってきたのです。かつての「運動制限」から「運動療法」へと大きな転換を遂げたのです。(推定GFRとは推定糸球体濾過量といい腎臓の機能を表します。)
具体的には比較的安定した慢性腎臓病の患者さんに運動療法を行うことで推定GFRを改善するという報告が相次いでいます。また、中程度から高度の慢性腎臓病患者さんが運動療法を行うと、総死亡率が低下するばかりではなく、透析や腎移植を仰制するという報告もあります。運動療法を中心として薬物療法、食事療法とを組み合わせた包括的な治療は慢性腎臓病の患者さんを透析に移行するのを先延ばしするのができるのです。
一部の研究者の発表だけではなく日本腎臓学会発刊の「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」や「CKD診療ガイド2012」にも運動にかんする項目が盛り込まれるまでになっています。そこでは慢性腎臓病にも身体活動や運動療法の重要性が指摘されています。
実際の例を論文で見ていきましょう。図①の発表では、「有酸素運動とレジスタンス運動(筋肉運動)を組み合わせた運動療法を週3回/12カ月継続したところ、推定GFRの減少は通常治療群の-8.5±6.4ml/分/1.73㎡に対し運動療法群では-3.8±2.8ml/分/1.73㎡と有意に低下した」とのことです。また図②の様に「特別な運動療法でなく身体活動を高める歩行のみであっても、慢性腎臓病患者さんの10年間の全死亡リスクを33%、腎透析のリスクを22%低下させ、週当たりの運動実施回数が高いほどそれらのリスクをより低下させる」という報告があります。
日本腎臓リハビリテーション学会のガイドラインでは、①中等度の強さの有酸素運動、②日常生活でかかる以上の抵抗を筋肉に加えて筋力を高めるレジデンス運動、③柔軟体操、の3種類を推奨しています。
有酸素運動は早歩きのウォーキングやサイクリング、水泳などを1回20分~30分、週に3~5回が目安です。
レジデンス運動は最大筋力の7割程度の力で、トレーニング用のゴムチューブ(エキスタンバー)を両手で伸ばしたり、ダンベルを上げ下げしたりします。スクワットも有効です。1セット10~15回を体力に応じて1~数セット、これを週に2~3回実践します。
ただし、高齢の人なら、座ってテレビを見ている時間を少しだけ減らし、近所の散歩や室内での片足立ち運動などに充てるだけでも効果的です。
運動療法は良いことずくしの様ですが、注意すべき点もあります。腎臓の血流量は運動による影響を顕著に受けるもので、激しい運動時には50~75%も低下することが知られています。短期間に激しい運動を行うと尿蛋白排泄量が増加し、腎血流量や糸球体濾過量が減少することがあります。強度の運動を行うと腎機能障害や腎病変が増悪する危険性もありますので積極的に強い運動療法を行う時には是非主治医とよく相談されてから行って下さい。
運動療法にはサルコペニアやフレイルの予防・改善、生命予後改善、透析導入予防等のいろいろな役割が期待されるところです。運動療法を中心として薬物療法、食事療法とを組み合わせた包括的な治療は腎臓リハビリテーションと言います。この腎臓リハに取り組むことにより糖尿病患者さん、腎臓機能障害のある方の生活機能や生活の質の改善をし、健康寿命の延長を達成したいものです。